新しい運転免許証が届いた。
車の免許を取ったのはわりと遅くて、27歳頃だった。電車移動で特に不便はなかったし、自分が車を運転するなんて危なっかしいと思っていたのだ。
父は昔から車が好きで、私が教習所に通い始めて一番喜んだのが父だった。
僕のやることなすこと頭ごなしに反対してきた父が唯一喜んでくれた事柄だったと思う。
仮免を取って路上の練習に出た時は、ダンボールにマジックで「仮免許 練習中」のプレートをわざわざ作ってくれて、助手席に乗ってくれた。
しかし運動神経ゼロ&ビビリ&方向音痴なので、結構苦労した。時間もかかったし、カネもかかった。路上教習の道順が覚えられないのだから、全く手に負えない。
しかし父の指導の甲斐もあって、最後の実技にパスする頃には、教官から「君、昔免許持っとったんか?」と言われるぐらいに上達した。
運転免許試験場の筆記に合格し免許証を貰って帰ると、父は自分の財布から免許証と、一枚の写真を取り出して、僕に見せてくれた。
その、証明写真ほどの小さなモノクロ写真には、見知らぬ女性の顔があった。
「これな、ワシのおかあちゃん、つまりお前のおばあちゃんの写真や」
父の母親、つまり僕の父方の祖母は、父が五歳の頃に病気で亡くなって、父は継母に育てられた。これが意地悪な人で、よくいじめられたという苦労話を、何度も聞いたことがある。
父の生みの母親の顔というのを、僕はその写真で初めて見た。優しそうな、笑顔の素敵な女性だった。
「お守り代わりにな、いつも免許証と一緒に入れとんねん」
そう言って父は写真と免許証を財布にしまうと、「無事免許取れてよかったな、車が空いてる時はいつでも使ってええから、気ぃつけて運転しいや」と言って、自分の部屋に戻った。
なぜだか、涙が止まらなくって、母親が前にいることも忘れて、おいおい声を出して泣いてしまった。